相倉集落 -@富山県五箇山 [Scenery]

修士論文も一段落したので、卒業する前に今年度を振り返ります。
今年度で一番楽しかった思い出は、夏に日本建築学会の大会で富山に行ったことです。
富山市でトラムに乗ったり、高岡市で酒蔵を尋ねたり、白川郷や金沢まで足を伸ばしたりしました。

そして、大会の最終日には、富山県南砺市にある五箇山に宿泊しました。
ここは、1995年に「白川郷・五箇山の合掌造り集落」として世界遺産に登録されています。

合掌造りとは、急傾斜の茅葺屋根が天辺で組合さっている住宅建築様式で、合掌造りにすることで屋根裏に小屋束のない広い空間が生まれるので、江戸時代中期頃からそこで養蚕をしていたそうです。

相倉集落全景.jpg

五箇山には、菅沼(すがぬま)集落と相倉(あいのくら)集落という大きな集落が2つあり、このときは相倉集落に滞在しました。

一般的には菅沼集落の方が有名で、多くのガイドブックにはこちらの集落がメインで紹介されています。
ただ、若干観光地化が進み過ぎている感があり、また、国道156号線に隣接していることもあって自動車の気配が強く、
集落という言葉からイメージするようなこじんまりとした雰囲気はあまり感じられませんでした。

一方で、相倉集落は国道から5,6分ほど歩いたところにあり、周囲を森と山に囲まれた段丘上に集落が広がっていて、外界から少し隔離されたような雰囲気がありました。
個人的には、こちらの方が人の出入りが少なくて、落ち着いてゆっくり滞在できるのでおすすめです。
(上の写真は、相倉集落を上から眺めたところです)


宿泊場所は、「勇助」という民宿でした。
建物はもちろん合掌造りで、風呂は檜の木桶風呂でした。

相倉集落風呂.jpg

夕飯では、地元で採れた山菜の天ぷらや鯉の刺身、岩魚の塩焼きが出てきました。
山菜は素材の味だけでなく歯ごたえもきちんと残っていて、魚は生臭さなど微塵もなく、
どれも美味しくて舌鼓を打つ味でした。

相倉集落夕食.jpg


ここの宿は、ご主人がとても親切な方で、食後に世界遺産五箇山相倉集落の現状についてお話ししてくださいました。
その話の中には、私たちが普段テレビや新聞などから得ることはできない、世界遺産の裏側に潜む厳しい現状がありました。

私は不勉強で知らなかったのですが、世界遺産に登録されたからといって何か特別な補助金等がその地区にもたらされるわけではないそうです。
本当に「登録」されるだけなのです。

そのため、世界遺産に登録されるための条件として、既に国によって今後半永久的に保存されることが保証されるほどの体制が整っていることがあるそうです。

相倉集落は1970年に国の史跡に、1994年には重要伝統的建造物群保存地区に選定され、保存にかかる費用の一部は国の補助で賄っているそうです。

歴史的に貴重な集落を後世に伝えるために保存する、一見すると崇高で意義深い行為のように思えますが、宿のご主人から伺った話は、「保存」の是非についてとても考えさせられる内容でした。

というのも、保存地区に選定されると、建物はもちろん、土塀・石垣・水路・墓などの「工作物」や、庭園・樹木などの「環境物件」に保存措置を講じなければいけなくなるそうです。
どういうことかというと、宿のご主人曰く「国の許可を取らなければ、庭先の岩一つ自由に動かすことができない」のだとか。

また、集落で暮らす人の住まいである合掌造りの家そのものも保存対象となっているため、修復以外のリフォームもほとんどできません。
コンセントの穴も申し訳なさそうに柱の根元についてあるほどです。

そのため、現代の一般的な生活様式とは少し違った生活をすることになります。
ご主人のように昔から住んでいる方はさほど気にならないそうですが、若い夫婦が住もうとしたときには、ふすまのみで仕切られた部屋だとどうしても暮らしにくいだろうとおっしゃっていました。
だから、新しく住もうとする人がいなく、集落の中には住む人がいなくなった空き家もあり、そういった家は自治体が管理しているそうです。

民宿囲炉裏.jpg


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暮らしている方には少々失礼な言い方かもしれませんが、ご主人の話を伺って、相倉集落は「時間が止まった集落」だと感じました。
保存地区に選定された時点から時間を止められてしまったように感じたのです。
時代が変わり、生活様式も変わったのに、物理的な環境を変えることができないために、現代的には不自由な生活をせざるを得なくなっています。
集落なのに、観光にどんどん偏り、また残すことばかりに目がいき、人のリアルな生活が失われていっている現状を見ると、現行の保存方法に疑問を呈さずにはいられません。

確かに、保存地区に選定しなかったら、取り壊されてなくなり、相倉という地名だけが淋しく残っていただけかもしれません。
でも、そのままの状態で保つのではなく、その集落が時代の変化に順応しながらゆるやかに歳をとっていける保存の仕方はないのでしょうか。

ともすれば、時間を止められた集落は、外界から切り離され、「本物」という点を除いてはテーマパークと変わらないように考えられます。
合掌造りの家屋という歴史的資産がある環境で生まれ育った人がどのように暮し、成長し、自分の生活環境を変えていこうとしたか、その変化を残すことも十分価値があることだと思います。

相倉集落全景2.jpg

相倉合掌造り保存財団 http://www.g-ainokura.com/
民宿 勇助 http://ww2.ctt.ne.jp/~dhayashi/

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